発売するまでは「トリコ先輩」と嘲笑されたこの作品は私に何かをもたらした。
この一言で感想を終えてしまいたくなるほど、クリアした後の私には言葉がでなかった。
ゲーマーの皆さんなら同意してもらえると思うが、今年出たゲームは完成度が高いゲームが多い。
ホライゾン、仁王、バイオハザード7などなど上げればキリがない。
人喰いの大鷲トリコはそれら以上に完成度が高いといえるわけではない。なぜならそれらとはまったく別の種類のクオリティをもった作品であるからだ。
トリコの圧倒的な存在感
トリコは人食いの大鷲である。
もちろん現実にはそんな大鷲は存在はしない。
しかしペットを飼っていた経験がある人ほど、トリコの存在をより身近に感じられる。
なぜなら一見、あまり変化のないように見える動物達の表情は実際によく観察すると実はたくさんの表情を持つことにペットを飼っていることによって気づくからだ。
トリコの表情は感情がわかるほど多彩であり、表情や鳴き声でトリコが今、何を考えているかがプレイヤーが徐々にわかるようになってくるところがすごい。
大抵のゲームでは動物に対してゲーム上のキャラクターがそれを察して行動することが多い。それだけにこのゲームが特殊だと言える。
ニンテンドッグスなどは実在する犬をシミュレートしたものなので、当然違和感をプレイヤーに感じさせる事はないのだが、本作品は大鷲という実在しない動物でありがながらも挙動に関して違和感を感じたプレイヤーは少ないのではなかろうか。
犬なのか、猫なのか、鳥なのか。それぞれの挙動に共通点はあれど、その挙動は大鷲というオリジナルであり、それこそが圧倒的な存在感を出すことに成功している。
違和感の無い謎解き
本作はエリアごとの仕掛けを解きながら進んでいく謎解きゲームである。いわゆるアドベンチャーというジャンルに分類されるものだ。
そしてプレイヤーがエリアごとに毎回考えなければいけないことは、3つある。
- 少年(プレイヤー)ができることは何か
- トリコがしてくれる事は何か
- エリアの仕掛けはどんなものか
以上の3つによってバイオハザードの謎解きのようなナンセンスさは感じづらくなっている。
バイオハザードにおいてはプレイヤーができることと、エリアの仕掛けによって進行していく。バイオハザード7はサバイバルホラーとしては素晴らしい出来だったが、どんな理由付けをしてもあの家の仕掛けはないな、と思った。
まさにゲームとして楽しめる作品でそれはそれで素晴らしい。
ただ、本作においてはトリコという不確定要素を置くことでエリアの仕掛けに対する違和感が大分薄まっている。
プレイヤーが謎解きがわからない時でもトリコが何らかの道筋を視線や行動で示してくれる。
それでもプレイヤーがもたもたしていると既に大人になった少年の切り口から
のようなヒントが入る。
この物語は少年が大人になった後にトリコとの冒険を振りかえって語っている内容としているからできる芸当だ。
他の作品では天の声として割り切っている物が多い。
このような細かい配慮によって、ゲームながらもなるべく違和感を出さないように作られたゲームデザインはそれ自体がオリジナリティであり、プレイヤーを没入させる事に成功している。
ピンチに必ず現れるヒーロー
ヒーローがなぜ多くの人から愛されるのかを皆さんは知っているだろうか。
それはヒーローが期待に応えてくれるからです。
本作の少年にとって、そしてプレイヤーにとってトリコは間違いなくヒーローです。
ピンチになった時、R1を連打しながら
と私は叫んだのですが、共感をいただけるプレイヤーもいると思う。
そしてそれに応えて本当にやってきたトリコを見た日にはもう
とテンションとトリコへの好感度は上がりまくり、もしトリコが困っていたらなんでもしてあげたいという感情が芽生えるのです。
そうしてトリコへの感情移入は大きくなり、トリコの細かい挙動にも気を配るようになるのです。
槍が刺さっているのを見るはつらいよね。
空白を大事にしたストーリー
本作は上田文人さんというゲームクリエイターが制作した作品で、過去の作品であるicoやワンダの巨像と同じように、ストーリーには多くの謎があり、その謎が全て明かされることはない。
それを私はストーリーの空白と呼んでいる。
ストーリーを1から10まで全てを説明する時と、重要な3だけを説明する場合とではストーリーに対する印象がまるで違う。
当然スッキリするのは謎に対して全ての説明があることだが、私は全ての説明が無い方が好き。
なぜなら現実においても、そもそも人間は「なぜ酸素を吸うようにできてるの?」なんて小学生のような質問されたら「そういうふうにできてるから」としか答えようがなく、それでいいと思っている。
いわゆるちっぽけな存在には知り得ない「摂理」という考えの方が想像が膨らんで、心地よい。
トリコがなぜあの場所にどうやって生まれたのかは私にとってどうでもよく、トリコが何を感じているに興味がある。
ラストシーンでは色々な理由があることを知ることができるが、根本的な問題については何も説明されていない。
そこから何を感じようともあなたの自由なのだ。
人喰いの大鷲トリコの感想まとめ
もう一回言うよ。すごいゲームだった。
まるで現実に存在するかのようなトリコと一緒に行った冒険は私の頭から離れない。
樽を顔にぶつけた時の嫌そうな顔や、敵と対峙した時の荒ぶった感じ、そしてたまに甘えたような表情も見せる。
まさにトリコは生きていた。
と思われる方もいるかもしれない。実際トリコをゲームのキャラクターとしてしか見れない人にはストレスの貯まるクソゲーなのかもしれない。
それでも私にとってはトリコは確かに生きていて、一緒に冒険をした。
その事実は変わることはない。